AGIがもたらす産業爆発とは何か 【bioshok file 008】

執筆者
AI安全・AIトレンド 啓発アナリスト(独立)
bioshok
大学では半導体に関する研究をし、大学院では自然言語処理に関する研究を行う。 現在はITエンジニアとして働く。 Xの@bioshok3(フォロワー数2万9千人)にてAIに関するトレンドとAIのリスクに関わる多数の情報発信を行っている。著書に “AIのもたらす深刻なリスクとその歴史的背景” (2024)や人工知能学会の私のブックマークに”AIアライメント”がある。超知能がある未来社会シナリオコンテスト(2024)にて「(ファイ)の正夢」(共著)にて佳作を受賞。
前回の記事では、AGIピルの話をしました。
「AGIピルを飲む」とは:汎用人工知能と呼ばれる人間のできることならほぼ何でもできるAIが出てきた場合、社会が根本から変わると信じる事。
AGIができると「ホワイトカラー」や「バーチャルな世界」への影響は大きいかもしれないけど、「物理的な現実世界」への影響は限定的だと考えている人は多いのではないでしょうか。
しかし今回はそのような考え方を覆してしまうような、AGIピルの世界観の中でも最も信じがたい「産業爆発」と呼ばれる概念を説明したいと思います。
本記事の参考となる文献や資料はトピックで分割が難しいため最後にまとめます。
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産業爆発とは何か

産業爆発とは、AGI開発以後ほんの数年から10年で急速に物理的な世界が変革され、産業が拡大する事をいいます。
多くの人はAGIという言葉をこの1年で聞くようになったと思います。
- 日本の孫正義
- OpenAIのサム・アルトマン
- Deepmindのデミス・ハサビス
上記の有名人も、最近何度も言うようになりました。
汎用人工知能というものがあり、それが開発されるとホワイトカラーの仕事が自動化されたり、戦争が過激化したり、いろんなリスクがあるらしい。
汎用人工知能、AGIは様々なメディアでも少しずつ取り上げられるようになりました。
しかし、多くの人はAGIができてもホワイトカラーに影響は大きいかもしれないけど、「物理的な現実」、特に街の風景や工場や世界中のインフラは変わるのは遅い、と思っている人が大半なのではないでしょうか。
最先端の議論では、AGIが開発されたあとに「物理的な世界がもっと過激に変わる」とされています。
具体的に言えば、以下の順序です。
- AGIが開発されると急速にロボットがロボット自体を作る世界に突入する
- わずか数年で数億台数十億台のロボット産業が立ち現れる
- ほとんど全ての産業が自動化される。
その後5年、10年でその数は億台スケールから兆台スケールに迫っていき、地球上では、超巨大な都市や、海上海底都市や、想像もしないような大きな構造物が建てられているかもしれません。
また宇宙に目を向けると、水星や小惑星帯を材料に自己複製するロボット工場によって、太陽の周りにダイソンスウォームと呼ばれるエネルギーインフラが立ち上げられ、人類は急速にエネルギー消費量を高めていき、カルダシェフ・スケールタイプ1、もしくは2文明への階梯を登っていくだろうとされています。

カルダシェフ・スケール文明とは、知的生命体の文明レベルを分類する指標で、太陽光のエネルギーを基準に、地球上に降り注ぐ太陽光エネルギーを全て使える文明レベルを1、太陽の放っている光エネルギー全てを使える文明を2と分類します。
地球上に降り注ぐ太陽光のエネルギーを捕捉するだけで、現在の人類の1次エネルギー消費量の1000倍、太陽となると1兆倍に近いエネルギーを使えるようになります。
SF作品で見られるような超巨大な都市や豊かな未来都市の風景、もしくはガンダムやスターウォーズを見たことがある方も多いかもしれません。
そのようなまさに「宇宙文明」と言えるようなスケール感の文明にAGIが開発されてから、わずか5-10年、長くても数十年で到達してしまうというような議論が「産業爆発」という概念で定式化されています。
このような変革は、単なる工場のオートメーションや、DXやホワイトカラーの業務効率化でイメージされる産業革命をはるかに凌ぐ「物理的世界の爆発的な」変化になるでしょう。
いわば産業爆発は、産業革命を超えたとてつもなく大きな、物理的なインパクトを社会全体に起こす事象と言えるのです。
産業爆発は何故起こるのか
産業爆発はなぜ起こるのでしょうか。
色々な疑問があると思います。一つずつ出てきそうな疑問に対して説明していきます。

産業爆発の前提で重要なのは、最先端での議論でも「規制や人間社会側の摩擦」があれば、上記のような急速な産業の変化は起こらないかもしれないということです。
後述するように、もし人間社会の摩擦がなければ、技術的物理的もしくは経済的に産業の急速な爆発的拡大は起こり得るとされています。
しかし、もし国家がAIの使用方法を規制したり、人間社会側の導入の遅さなどがボトルネックになると、急速な物理的な世界の変革にはつながらないかもしれません。
一方で、産業爆発が起こる誘因として大きいのは「安全保障」の問題、特に現実的なのは米中の対立とされています。
もし一方が、AGIを用いてロボットがロボットを作る急速な産業爆発を起こしているのに、他方が今の社会のままだと経済的、軍事的に大きく遅れを取ってしまうリスクがあります。
現在の国家間の技術や経済格差で、たとえばアメリカという大国と、人口数万人の小さい国家との差に値するような、とてつもなく大きな差をつけられてしまうとします。
産業の爆発的発展を逃した国は産業爆発で先行した国に対し、軍事的、経済的に全く太刀打ちできず、最悪の場合侵略されても打つ手段がなくなってしまうようなリスクが大きくなります。
もちろん現実的には、急速な産業の拡大を推し進めようとすると、以下のように数多の問題が出てくるため、ある程度の規制はされると考えるのが妥当でしょう。
- 環境への被害
- 地元住民への公害や立ち退き
- AGIが暴走するリスクなど
しかし一方で、環境への配慮や国民への人権をほぼ気にせずに、他の国よりも多くのエネルギーと産業構築能力をえて、それらを基盤とした強力な経済、技術、軍事力を保有することができる可能性があるでしょう。
- AGIを用いて急速に地球上で太陽光パネルを敷設する
- データセンターをどんどん立てる
- ロボット工場を急速に増やしていく
イメージとしては極端ですが、産業爆発に先んじた国家は、産業革命前の中世の国家から見た現代のアメリカのようなものです。
彼らは前近代的な生活水準で暮らしていますが、一方で現代のアメリカは強力な軍事力と経済力と技術力を保有し、その差は圧倒的な文明の隔たりとなるでしょう。
そのため、「経済・軍事安全保障」の観点から言えば、AGIを用いた産業の爆発的発展を規制することは、他国との協力的な規制がない限り、厳しいものになります。
ロボットがロボットを作る

産業爆発の議論は、直感的には信じられません。
わずか数年というスケールで、汎用ロボットやヒューマノイドが数億台に拡大するような世界はありえないように感じます。
ましてや10年20年というスパンで太陽系全体に人類文明が拡大していく世界も信じがたいでしょう。
ここでポイントになるのは、ロボットや工場が自分自身を作り複製可能になるということです。
人間社会で工場やロボットを作るためには当たり前ですが、「人間」という労働力が必要です。
- 工場の設営や運営
- 工場を建てるための機材の生産
- その機材や工場で生産される製品の材料自体の採掘など
上記のように、ほとんどすべてのフェーズに人間が介在しています。
そのため工場は、工場自らを機械的に作ることも、その設計を人間なしに改善することはできません。
全てのフェーズに人間というボトルネックが存在するためで、どんなにラインの自動化やDXが進んだとしてもどこかで必ず人間という制約が効いてきます。
もちろん人類人口全体は自然に少しずつ増えていますが、年間数%程度であり、その年間成長率に産業や経済全体の成長率は制約されています。
また人間は人間を機械的に増やすことはできません。
まず産業化することは倫理的にできませんし、できたとしても機械的にどんどん増やすスピードにも生物学的な限界があります。
しかし、もしAGIが開発されれば、AGIは定義上人間のやることなら何でもできます。
ボットを用いてブルーカラーのやっているすべての仕事はもちろん、工場運営の管理も研究開発も全て代替可能となります。
その場合、ロボットがロボットを作ることが可能になります。

ロボットがロボットを作れるようになると、1年で倍増するとしたら最初100万台のロボット達は、2年目に200万台になり、3年目に400万台になり、10年目には10億台になっています。
まさに、指数関数的な成長です。
そしてこの「ロボット」を「工場」または、もっと抽象的に「システム」と置き換えても成り立ちます。
もはや人間というボトルネックがないため、工場が工場自体を作れますし、広義のインフラもロボットや工場やエネルギー生産設備の集まりです。
そのすべてをシステムと名指すと、その何らかのシステムは指数関数的に増殖可能になるのです。
これが今の人間社会だとこうはいきません。
人間はロボットや工場を作ることはできますが、人間そのものを人間が製造することはできないため、指数関数的な成長が不可能になります。
しかしロボットならそれが可能なのです。
資源やエネルギーが足りないのではないか

そんなに急速な産業爆発は、エネルギー問題や資源不足を招くのではないでしょうか。
世間では、エネルギー不足や資源不足がよく取り上げられています。
しかし、実際に問題なのは資源やエネルギーの絶対的な不足ではなく、その取得コストなのです。
まず、エネルギーについては、地球上だけでも太陽から降り注ぐエネルギーの総量が現在人類が使用している1次エネルギー消費量の数千倍から1万倍に相当します。
もちろんその全てを使えるわけではありませんが、核融合発電のような夢のような技術を持ち出さなくても、現状の延長線上にある太陽光パネルという技術を使い、地球表面積の数%に太陽光パネルを敷設するだけで、現在の世界のエネルギー消費量を100倍程度に引き上げることが原理的には可能です。
また地球を離れれば、天然の核融合炉である太陽が放つエネルギーの総量は地球に届く分のさらに数十億倍であり、太陽系全体で見るとほぼ無限と言っていいようなエネルギー源が存在しています。
また、天然資源についても地球の地殻には膨大な量の鉱物資源が存在しています。
産業で使われる天然資源は大きく分けて、以下の2つに分類されます。
- 鉄やアルミニウム・銅といった「ベースメタル」と呼ばれる主要な金属類
- リチウムやコバルト、レアアースといった「レアメタル」
よくニュースで「資源が枯渇する」と言われますが、これは現在の技術とコストで採算が取れる「埋蔵量」の話であり、地球に物理的に存在する資源の総量とは全く別の話です。
たとえば鉄は地殻の約5%を占めており、地殻全体に含まれる鉄の総量は人類が毎年採掘している量の数百万倍に相当します。
銅やアルミニウムなども同様に、現在の経済的に掘れる鉱山だけでも数十年分とされていますが、まだ発見されていない鉱床や、現在は採算が合わない低品位の鉱石まで含めると、その数十倍から数百倍の量が存在し、さらに地殻全体に薄く広がっている分まで含めれば数万倍以上のオーダーになります。
ちなみに「レアアース」や「レアメタル」はその名前から希少な物質だと思われがちですが、実際には地殻中の存在量で見ると銅や亜鉛といったありふれた金属と同程度かそれ以上に存在しており、最も少ないレアアースでさえ金の約200倍の量があります。
「レア」なのは絶対量ではなく、薄く広く分散しているために採掘・分離が難しくコストがかかるという意味での希少さなのです。
つまりエネルギーと同様、天然資源も物理的な絶対量が足りないのではなく、それを掘り出して精製するコスト、すなわち必要なエネルギーと労働力が問題なのです。
そしてここまで述べてきたように、AGIとロボットの自己複製によってエネルギーも労働力も指数関数的に拡大するのであれば、その取得コストの壁は急速に崩れていくことになります。
指数関数を超える超指数関数的成長

ここまでの議論で、ロボットが1年で倍増するとしたら100万台が10年で10億台になるという話をしました。
しかし10億台という数は多いようにも見えますが、太陽系全体を掌握するほどの物量とは到底言えないかもしれません。
地球上の全産業を完全に作り替え、さらには宇宙に進出して惑星を解体するようなスケールの産業爆発には、10億台程度のロボットではまだ足りないように感じるかもしれません。
しかし産業爆発の議論で重要なのは、倍増時間そのものが一定ではなくどんどん短くなっていくということです。
例えば1年という初期の倍増時間が数ヶ月、数週間、数日とどんどん短くなり得ます。
これは経験曲線と呼ばれるものが根拠です。
製造業では一般的に、累積生産量が倍増するたびにコストが一定の割合で下がっていくことが知られています。
太陽光パネルやスマートフォン、電気自動車など様々な産業で経験的に確認されてきた法則です。

画像出典:Learning curves: What does it mean for a technology to follow Wright’s Law?(Our World in Data)
Forethoughtの研究では、関連産業のデータを調べた結果、ロボットの累積生産量が1〜5回倍増するごとに製造コストが半分になると推定されています。
コストが半分になるということは、同じ資源と時間で倍のロボットを作れるということですから、倍増時間そのものが短くなっていきます。
つまり最初は1年で倍増していたものが、生産量が拡大していくと半年で倍増になり、3ヶ月で倍増になり、1ヶ月で倍増になり…と加速していきます。
指数関数ではなく、加速する指数関数、すなわち「超指数関数的」な成長です。
ここで、直感的にはおかしいと感じるかもしれません。
いくら数が増えても、ロボットの技術が向上しなければどこかで限界が来るのではないか、と。
しかしここでもう一つ重要な要素があります。
経済学では「半内生的成長モデル」と呼ばれる標準的な理論で、研究者の数が増えれば技術進歩のスピードが加速することが知られています。
AGI以後の世界では、AIの研究者が事実上無限に増やせるため、ロボット技術そのものの改善スピードも急速に上がっていきます。
技術が改善されればロボットの製造効率が上がり、製造効率が上がればロボットが増え、ロボットが増えれば研究者(AI)が増え、研究者が増えればさらに技術が改善される。
フィードバックが二重三重にかかり、成長の加速が加速するという構造になるのです。
では、最終的に倍増時間はどこまで短くなりうるのでしょうか。
Forethoughtの分析では、生物学的なアナロジーを用いてその上限を推定しています。
自然界には、以下のような生物がいます。
- バクテリアのように数時間で倍増する生物
- ショウジョウバエのように数日で倍増する生物
- ラットのように数週間で倍増する生物
上記のような動物は、脳を持ち環境に反応して複雑な行動ができる自己複製システムであり、ロボットもいずれは同程度の速度で自己複製できるようになる可能性があるということです。
もし倍増時間が数日にまで短くなった場合、宇宙スケールのプロジェクトも急に現実味を帯びてきます。
たとえばダイソンスウォームの建設では、水星のような惑星を自己複製ロボットで解体し、太陽光パネルに変換していくわけですが、このプロセス自体がフィードバックループです。
太陽光パネルを作れば作るほどエネルギーが増え、エネルギーが増えれば採掘と製造が加速し、製造が加速すればさらに多くの太陽光パネルが作れます。
もし前述のような数日単位の倍増時間が実現すれば、理論上は1年以内に水星を解体してダイソンスウォームの大部分を構築することも不可能ではなくなります。
保守的に数ヶ月の倍増時間としても、数十年以内に実現可能でしょう。
重要なのは、こうした議論は物理法則に違反していないということです。
- 熱力学の法則
- エネルギー保存則
- 光速の制限
上記のように根本的な物理的制約には抵触していません。
必要なエネルギーは太陽が毎秒放出している莫大なエネルギーから供給可能であり、必要な資源は水星や小惑星帯に大量に存在します。
これは「技術的に今すぐできる」という話ではなく、「物理的に禁止されていない」という話です。
つまり十分に進歩した技術と自己複製する産業基盤があれば、原理的には実現可能な範囲にあるということなのです。
人間の需要がボトルネックになるのではないか

ここまでの議論を聞いて、別の疑問を持つ人もいるかもしれません。
供給側(ロボットやエネルギー)がいくら指数関数的に増えても、それを消費する「人間の需要」が追いつかなければ、産業爆発は途中で止まってしまうのではないか、という疑問です。
たしかに人間は80億人しかいませんし、一人の人間が食べられる食事や住める家には限りがあります。
しかし歴史を振り返ると、人間の欲望は常に時代の技術水準に合わせて拡大してきました。
1万年前の狩猟採集民はスマートフォンも高層ビルも欲しいとは思わなかったでしょう。
彼らの欲望の範囲は自分たちが知っている世界に限られていました。
しかし現代人はそれらなしの生活はもはや考えられません。
人間の欲望は「今あるものの延長」で固定されるのではなく、新しい可能性が提示されるたびに拡張されていくものなのです。
フランスの思想家ルネ・ジラールが指摘したように、人間は「他者の欲望を欲望する」存在です。
誰かが宇宙旅行を楽しんでいれば自分も行きたくなり、誰かが素晴らしい体験をしていればそれを自分も味わいたくなる。
AGI時代にはAI自身が人間の欲望を天才的に刺激するマーケティングを行うかもしれません。
今の私たちには想像もつかないような商品やサービスや体験が次々と提案され、「これが欲しい」「あれを体験したい」という欲望が爆発的に生み出されていく可能性があります。
たとえば、巨大な宇宙コロニーでの生活が魅力的に描かれれば、多くの人がそこに住みたいと思うようになるかもしれません。
あるいは、無限の豊かさを持つメタバース空間を「所有」することに人々の欲望が向かうかもしれません。
そうした新しい欲望の対象は、膨大なエネルギーと計算資源とインフラを必要とし、産業爆発をさらに駆動していくことになります。
さらに長期的に見れば、「消費者=人間」という前提そのものが変わる可能性があります。
高度なAIシステムが自律的に活動し、自らの計算資源やエネルギーやインフラを必要とするようになれば、AI自身が実質的な「消費者」として経済を駆動するようになるかもしれません。
また人間の側も脳をデジタル的に拡張したり、意識をコピーしたりする技術が実現すれば、一人の人間が持つ欲望の範囲や処理能力そのものが桁違いに大きくなり、「80億人分の需要」という天井は意味をなさなくなるかもしれません。
つまり需要のボトルネックは一見もっともらしく見えますが、人間の欲望が固定的だという仮定自体が歴史的には成り立っておらず、AGI時代にはその拡張速度もまた加速していくと考えるのが自然でしょう。
実際に産業爆発が起こる際のイメージ

ここまで産業爆発のメカニズムを説明してきましたが、実際にはどのように進んでいくのでしょうか。
あくまで一つのシナリオとして、具体的にイメージしてみましょう。
まず、引き金になるのは安全保障です。
米中のどちらかがAGIの開発に成功し、それを産業に応用し始めた瞬間、相手国は猛烈な危機感を抱きます。
相手が先にロボット経済に移行すれば、数年で取り返しのつかない経済的・軍事的格差が生まれてしまう。
これは冷戦時代の核開発競争と同じ構造です。
どちらも規制をしている場合ではなくなり、安全保障上の理由からAGIを活用した産業の急速な転換が国家的プロジェクトとして推し進められていきます。
ここで参考になるのは、第二次世界大戦中のアメリカの経験です。
1941年の真珠湾攻撃の後、アメリカは自動車工場をわずか数年で戦闘機や戦車の工場に転換しました。
フォードの巨大工場はB-24爆撃機の生産ラインに変わり、ゼネラルモーターズは戦車を量産し始めました。
平時には考えられないスピードでの産業転換が、安全保障上の脅威の下では実際に起こったのです。
AGI時代には上記と同じことが、もっと大きなスケールで起こりうるでしょう。
現在、世界の自動車産業は年間約1億台の車を生産しています。
- 既存の巨大な製造インフラ
- 工場の建物
- 生産ライン
- サプライチェーン
- 熟練した労働者
上記の存在は、AGIのアシストがあればロボット生産に急速に転換できるかもしれません。
車の組み立てとヒューマノイドロボットの組み立ては、構造的に多くの共通点があるからです。
もし年間1億台の自動車生産能力がロボット生産に転換されれば、わずか数年で年間数億台から10億台規模のロボット生産が立ち上がる可能性があります。
この転換を加速するのがAGIによる人間労働者の支援です。
最初はロボットがすべてを作れるわけではありません。
しかし、AGIは工場の作業者にカメラ付きのスマートグラスやイヤホンを通じてリアルタイムで指示を出し、まるで世界最高の熟練工が隣でガイドしてくれるかのように作業の精度と速度を引き上げます。
- 工場全体の工程最適化
- 品質管理
- サプライチェーンの調整
上記のオペレーションも、AGIがリアルタイムで行います。
Forethoughtの推定では、このAGIによる人間労働の指揮だけで、物理的な生産性を約10倍に引き上げられるとされています。
こうして最初の数年でロボットの大量生産基盤が整うと、次のフェーズに入ります。
ロボットがロボットを作り、工場が工場を作り始めるのです。
ここからは人間の労働力というボトルネックが外れ、指数関数的な成長が始まります。
同時にAGIは科学技術の研究開発も猛烈に加速させます。
事実上無限に増やせるAI研究者たちが、あらゆる分野で24時間365日研究を進めます。
- ロボット工学
- 材料科学
- エネルギー技術など
技術が改善されるとロボットの製造効率が上がり、製造効率が上がると生産量が増え、生産量が増えると経験曲線に沿ってさらにコストが下がる。
前述した超指数関数的な成長のフィードバックループが回り始めます。
ここで数字の感覚を持ってもらうために一つの計算をしてみましょう。
もし経験曲線のコスト低下率が80%(累積生産量が倍増するたびにコストが80%になる、つまり20%下がる)だとすると、数学的にはロボットの倍増時間は生産規模の拡大とともにどんどん短くなっていき、約5年で倍増時間がゼロに近づく、つまり数学的には「発散」してしまいます。
もちろん現実には物理的な制約があるため本当にゼロにはなりませんが、この計算が示唆しているのは、経験曲線による加速効果は私たちの直感よりもはるかに強力だということです。
少し保守的に見積もっても、AGI開発から3〜5年で地球上に数十億台規模のロボットが稼働し、地球上の産業基盤を劇的に作り替えている可能性があります。
そしてAGI開発から10年程度で、産業爆発は地球を超えて宇宙に拡大していくかもしれません。
水星や小惑星帯に送り込まれた自己複製ロボットが現地の資源を使って太陽光パネルを製造し、太陽の周りにダイソンスウォームを構築し始める。
そのプロセス自体がフィードバックループなので、一度始まれば加速的に進んでいきます。
つまり私たちが今生きているこの時代から、わずか10年程度の時間スケールで、人類文明は地球上の一つの文明から太陽系規模のエネルギーを利用する宇宙文明へと移行してしまう可能性がある、ということです。
それは荒唐無稽なSFに聞こえるかもしれませんが、ここまで見てきたように、一つ一つのステップは物理法則に違反しておらず、経済的なインセンティブと安全保障上の圧力がそれを駆動していくのです。
まとめ

本記事では「産業爆発」という概念を紹介してきました。
多くの人はAGIのインパクトを過小評価しています。
- 「ホワイトカラーの業務が少し効率化される便利なツール」
- 「ChatGPTの延長線上にある賢いアシスタント」
上記の程度に捉えている人がまだ大半ではないでしょうか。
しかし本記事で見てきたように、AGIの真のインパクトはそのような穏やかなものではありません。
AGIとは、人類文明を地球上の一つの文明からカルダシェフ・スケールの宇宙文明へと短期間で押し上げてしまう可能性を持つ、人類史上最大の転換点になりうるものなのです。
「産業爆発」という概念は、ForethoughtやCarl Shulman、Epoch AIといった研究者たちによって真剣に議論されていますが、日本ではまだほとんど知られていません。
AGIの議論というとアラインメント(AIの安全性)や雇用への影響に焦点が当たりがちですが、物理的な世界がどれほど急速に変わりうるのかという視点は、それらと同じかそれ以上に重要です。
なぜならAGIが引き起こす最大のインパクトは、バーチャルな世界ではなく物理的な現実世界の爆発的な変革にこそあるかもしれないからです。
この記事が、まだ日本であまり語られていないこの重要な概念について考えるきっかけになれば幸いです。
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- Carl Shulman (interview by Dwarkesh Patel), Dwarkesh Podcast.
- Ege Erdil & Tamay Besiroglu, “Explosive Growth from AI: A Review of the Arguments,” Epoch AI.
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- “Could Advanced AI Drive Explosive Economic Growth?” Coefficient (旧Open Philanthropy委託研究).





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