【企業向け】生成AIを利活用する7つのリスクとは?事例や対策も解説
生成AIは生産性を高める便利なツールである一方で、さまざまなリスクを内包しています。生成AIを導入しようと検討している企業にとっては、リスクは無視できない重要な要素でしょう。
生成AIのリスクについて適切な対策を講じないまま導入すると、情報漏えいや法的トラブルなど、予期せぬ問題に直面する可能性があります。
本記事では、生成AIに関連する主要なリスクと、それらに対する具体的な対策を詳しく解説します。また、実際に起きた情報漏えい事例や企業が取るべき6つの対策について、分かりやすく説明していきます。
監修者
SHIFT AI代表 木内翔大
(株)SHIFT AI 代表取締役 / GMO他複数社AI顧問 / 生成AI活用普及協会理事 / Microsoft Copilot+ PCのCMに出演 / 国内最大級AI活用コミュニティ(会員5,000人超)を運営。
『日本をAI先進国に』実現の為に活動中。Xアカウントのフォロワー数は9万人超え(2024年9月現在)
この記事を読むことで、生成AIのリスクと対策について包括的に理解し、自社に最適な導入戦略を立てる準備が整うでしょう。
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目次
企業が生成AIを使う上でのリスク7つ
企業が生成AIを利活用する際には、主に以下の7つのリスクが存在します。
- 生成AIが嘘をつくリスク
- 情報漏えいのリスク
- 著作権侵害リスク
- プライバシー・肖像権侵害リスク
- 学習データの偏りによる差別のリスク
- 生成AIの中身が不明であるリスク
- 外部から攻撃されるリスク
どれも実際に起こり得るリスクであるため、企業で生成AIを導入する際にはとくに注意しておきましょう。
生成AIが嘘をつくリスク
生成AIの出力には、事実と異なる情報や架空の内容が含まれる可能性があり、これは企業にとって優先して対策するべきリスクです。このような現象は「ハルシネーション(幻覚)」と呼ばれ、生成AIが学習データにない情報をあたかも本当のように生成してしまうことを指します。
ハルシネーションが発生すると、たとえば架空の統計データや存在しない研究結果が報告書に混入したり、実在しない人物や企業の情報が営業資料に記載されたりする事態が起こりえます。
アメリカの弁護士がChatGPTで判例を探し、実際に裁判で使用したところ、存在しない判例であったという事例もあります。企業に置き換えると、クライアントに嘘の情報を提出することと同義です。
このリスクを軽減するには、生成AIの出力を鵜呑みにせず、常に批判的な視点で確認することが重要です。
情報漏えいのリスク
ChatGPTをはじめとする多くの生成AIは、入力されたデータを学習対象とするため、個人情報や企業秘密を入力すると、それらが第三者に漏洩する可能性があります。
たとえば、IT企業でプログラマーが社内のソースコードを誤ってAIに入力し、企業の知的財産が危険にさらされた例があります。
ChatGPTの場合、オプトアウト設定と呼ばれるデータを学習しない選択肢が提供されていますが、すべての生成AIでこのような設定ができる訳ではありません。多くのAIサービスでは、入力データの取り扱いが不透明な場合があります。
企業は生成AIを利用する際、どのような情報を生成AIに入力してよいかを明確に定義し、従業員に周知徹底することが重要です。また、機密性の高い情報を扱う場合は、社内専用のチャットボットの導入を検討するといった、情報管理を徹底する必要があります。
著作権侵害リスク
生成AIは既存の著作物に酷似したコンテンツを生成する可能性があるため、意図せず他者の著作権を侵害してしまうリスクをはらんでいます。多くの生成AIは著作物も学習対象としているため、その影響が出力に反映されることがあるためです。
たとえば、ある出版社が生成AIを使用して小説を生成したら、著名な作家の作品と類似した表現や展開が多数含まれてしまう可能性があります。
日本の著作権法第30条の4によれば、生成AIによる著作物の学習自体は原則として適法とされています。しかし、著作権者に不利益が生じる場合はこの限りではありません。
さらに、著作権侵害で訴訟が起こされた場合、生成AIの開発者ではなく、その生成AIを使用してコンテンツを生成した企業・個人が訴えられる可能性があります。
企業は生成AIが出力したコンテンツを使用する前に、既存の著作物との類似性を慎重にチェックする体制を整える必要があります。また、生成AIを使用して作成したコンテンツであることを明示し、必要に応じて著作権者の許諾を得るといった、法的リスクを最小限に抑える対策を講じることが重要です。
生成AIの著作権については、以下の記事でまとめられているため、ぜひ参考にしてみてください。
生成AIが作った画像・文章は著作権を侵害する可能性あり!回避する方法も
解説生成AIで作ったコンテンツは、著作権を侵害する可能性をもっています。著作権を意識せず生成AIを使うことで、思わぬ損失を被ってしまう場合があります。本記事では、生成AI…
プライバシー・肖像権侵害リスク
生成AIの利用には、個人のプライバシーや肖像権を侵害するリスクが潜んでいます。生成AIが意図せず特定の個人情報や顔画像を出力してしまう可能性があるのです。
とくに著名人の顔画像は、AIが学習した大量のデータに含まれている可能性が高いため、このリスクが顕著です。
また、ディープフェイクと呼ばれる技術を用いた、偽の動画や画像の生成も深刻な問題として注目されています。これにより、本人の承諾なく顔や声が無断で使用される事態が発生しています。
企業は生成AIを使用する際、個人情報保護法やプライバシー権、肖像権に十分配慮する必要があります。AI生成コンテンツの厳格な審査体制を設け、問題がある場合は速やかに対応できる仕組みを整えることが重要です。
学習データの偏りによる差別のリスク
生成AIの学習データに偏りがある場合、特定のグループを差別的に扱ってしまうリスクがあります。これは、生成AIが学習データの傾向をそのまま反映してしまうためです。
たとえば、ある企業の採用AIシステムが、過去の採用データをもとに学習した結果、特定の性別や人種の応募者を不当に低く評価してしまうことが考えられます。
このリスクを軽減するには、生成AIの判断を絶対視せず、人間による最終確認を行う体制を整えることで、公平性を担保する必要があります。
生成AIの中身が不明であるリスク
生成AIの多くは内部構造がブラックボックス化しており、具体的にどのような処理が行われているのかを把握することが困難です。この不透明性は、企業にとって予測不可能なリスクをもたらす可能性があります。
たとえば、生成AIの判断根拠が不明確なため、法的紛争や監査の際に説明責任を果たせない事態が起こりえます。また、生成AIの誤った判断や偏見を見逃してしまい、重大な意思決定ミスにつながる可能性もあります。
生成AIには、内部構造が公開されているオープンモデルと、非公開のクローズドモデルがあります。企業はこの違いを理解し、用途に応じて適切なモデルを選択することが重要です。
利用する我々は、生成AIの中身が完全に把握できないことを理解した上で、利用する環境を構築する必要があるのです。
外部から攻撃されるリスク
生成AIは、プロンプトインジェクションと呼ばれる攻撃を受けるリスクがあります。これは、悪意のある指示を生成AIに与えることで、本来の動作を妨害したり、不正な情報を引き出したりする手法です。
このような攻撃により、企業の機密情報が漏えいしたり、生成AIが誤った出力を生成したりする恐れがあります。
たとえば、カスタマーサポートAIが攻撃を受け、顧客に対して不適切な応対をしてしまうケースや、社内用AIが攻撃され、機密データにアクセスされる事態が想定されます。
企業は生成AIのセキュリティを強化し、不正な入力を検出・遮断する仕組みを導入する必要があります。また、生成AIの出力を常に監視し、異常を迅速に検知できる体制を整えることが重要です。
本章で紹介したようなリスクは、企業で生成AIを導入する以上、それを使う社員全員が知っておく必要があります。
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欧州(EU)では生成AIのリスクを4分類している
欧州連合(EU)のAI規制法では、AIシステムをリスクの程度に応じて4つのカテゴリーに分類しています。この分類は、AIの潜在的な危険性と社会への影響を考慮し、適切な規制レベルを設定するために行われています。
カテゴリー名 | 説明 | 例 | 法的義務 |
---|---|---|---|
許容できないリスク | 基本的人権を侵害する可能性が高いAI | 潜在意識への操作、社会的スコアリングシステム | 原則として禁止 |
ハイリスク | 既存の規制下にある製品や生体認証、重要インフラ管理、教育や雇用に関連するAI | 医療機器のAI、自動車のAI、生体認証システム | 厳格な要求事項と義務 |
特定の透明性が必要なリスク | 人間と相互作用するAI、感情推定や生体分類を行うAI、ディープフェイク生成AI | チャットボット、感情認識AI、ディープフェイク生成ツール | 透明性を確保する義務 |
最小リスク | 上記3つのカテゴリーに該当しないAI | – | 自主的な行動規範の遵守が奨励 |
この4段階のリスク分類により、EUはAIの進化を阻害することなく、同時に市民の権利と安全を保護することを目指しています。
各カテゴリーに応じた規制を設けることで、AIの潜在的なリスクに対して柔軟かつ効果的に対応する枠組みを構築しているのです。
生成AIにリスクがあることがわかる事例
生成AI活用による代表的な情報漏えい事例として、韓国サムスン電子での出来事が挙げられます。従業員がChatGPTに社内の機密情報をアップロードし、誤って情報をリークさせる事態が発生しました。
具体的には、エンジニアが社内ソースコードをChatGPTに入力したところ、そのデータが外部サーバーに保存され、他のユーザーに開示されてしまったとされています。
この事態を受け、サムスン電子は従業員によるChatGPTなどの生成AIツールの利用を禁止する新ポリシーを策定しました。社内機器や社内ネットワークでの生成AIシステムの使用を禁止し、個人所有の端末での利用においても、会社関連の情報や個人データの入力を禁じています。
世界的大企業が起こしたインシデントであるため、 生成AIのリスクを世界中に知れ渡らせる事例になりました。
生成AIのリスクを抑えるための対策
生成AIのリスクを抑えるためには、以下の対策が効果的です。
- 適切なAIツールの選定
- 社内マニュアル・ガイドラインの策定
- 生成AIの出力チェック体制の構築
- 専門家の招集
- 社内専用チャットボットの利用
- 社員のAIリテラシー向上
それぞれの対策を確認し、実践できそうなものから取り掛かってみましょう。
適切なAIツールの選定
著作権やセキュリティに配慮したAIツールを選定することが重要です。生成AIの中には、著作権やプライバシーの侵害リスクを極限まで抑えて開発されているものがあります。
たとえば、Adobe Firflyという画像生成AIは、著作権が切れた素材や自社保有の著作権フリー素材のみを学習に使用しているため、著作権侵害のリスクを大幅に軽減できます。Adobe Fireflyに関しては、以下の記事を参考にしてみてください。
関連記事:【著作権完全フリー】画像生成AI「Adobe Firefly」の特徴やできることを解説
また、ChatGPTは著作物を学習しているものの、不適切な発言・画像の出力や、特定の個人の情報・画像を出力することはないように設計されています。
適切なAIツールを選定することで、生成AIの活用によるリスクを最小限に抑えつつ、そのメリットを最大限に活かしましょう。
社内マニュアル・ガイドラインの策定
社内マニュアルやガイドラインの策定は、生成AIの利用に伴うリスクを軽減する効果的な方法です。AIツールの適切な使用方法、入力してはいけない情報の種類、出力結果の取り扱い方などを明確に記載します。
作成にあたっては、どの業務に生成AIを活用するのか、または社員のAIリテラシーなどを把握し、潜在的なリスクを特定します。次に、法務部門や情報セキュリティ部門と連携し、具体的な指針を策定します。さらに、定期的な見直しと更新のプロセスも組み込むことが重要です。
こうしたガイドラインを整備し、社員に周知徹底することで、情報漏洩やコンプライアンス違反などのリスクを大幅に減らせるでしょう。
生成AIのガイドライン作成方法については、以下の記事も参考にしてみてください。
関連記事:生成AIガイドライン策定ガイド!国・企業の実例10選や注意点をまとめて紹介
生成AIの出力チェック体制の構築
生成AIの出力をそのまま使用することは、ハルシネーションや著作権侵害のリスクを伴うため、最終的な確認は人間が行う体制を構築することが重要です。
たとえば、AIが生成したコンテンツを複数の担当者でチェックする体制を整えたり、専門知識をもつ部署による二次チェックを実施したりすることが考えられます。
このような出力チェック体制を構築することで、生成AIの誤りを捉え、質の高いアウトプットを確保しつつ、リスクを最小限に抑えられます。
専門家の招集
生成AIの専門家を招集することは、生成AIの活用におけるリスク管理に大きく貢献します。専門家は適切なツールの選定や出力の判定において、専門的な知見を提供できます。
たとえば、AI倫理の専門家がAIの判断プロセスの公平性を評価したり、セキュリティ専門家がデータ保護の観点からツールを評価したりできます。また、法務専門家に生成AIによる著作権侵害のリスクを判断してもらうのもよいでしょう。
ただし、専門家の招集にはコストがかかるため、企業規模や利用目的に応じて適切に判断する必要があります。専門家の知見を活用することで、より安全で効果的な生成AIの活用が可能になるでしょう。
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社内専用チャットボットの利用
社内限定で使用するチャットボットを導入することで、外部からの攻撃や情報漏洩のリスクを軽減できます。たとえば、Microsoftが提供するAzure OpenAI Serviceを利用すれば、入力されたデータが学習に使用されず、社内データの機密性を保持できます。
しかし、社内専用チャットボットの導入には専門的な知識や技術が必要です。システムの構築やメンテナンス、セキュリティ対策など、継続的な管理が求められます。
社内チャットボットは、適切に運用できれば生成AIの恩恵を享受しつつ、情報セキュリティを高いレベルで維持できるため、多くの企業にとって有効な選択肢となるでしょう。
社員のAIリテラシー向上
社員のAIリテラシー向上は、生成AIの安全かつ効果的な活用において重要な要素です。生成AIの基本的な仕組みや活用方法、リスクについて理解を深めることで、不適切な使用や過度な依存を防げます。
具体的には、定期的な研修やワークショップの実施、eラーニングコンテンツの提供などが効果的です。また、生成AIを活用した成功事例や失敗事例を共有することで、実践的な知識を広められます。
AIリテラシーの向上により、社員一人ひとりがAIツールを適切に使いこなし、出力を適切に評価できるようになります。組織全体のAI活用レベルを底上げし、リスク管理の強化にもつながるため、社員教育には力を入れることを推奨します。
生成AIのリスクを把握して適切な対策を
生成AIには、著作権侵害リスクやハルシネーションリスクなど、便利と言われている裏側でさまざまなリスクをもっています。
しかし、リスクを理由に生成AIを利用しないままでいると、利用している他社との競争に大きな差が生まれる可能性があります。
企業は生成AIのリスクを理解した上で適切な対策を行うことで、生成AIを安全に、かつ効果的に活用できるようになります。
本記事を参考にリスクを理解して、自社に生成AIを導入し、業務効率化を達成してみてください。
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記事を書いた人
大城一輝
フリーランスとしてライター、ディレクター、生成AIコンサルタントとして活動している。AI活用の講師も多数経験。
SHIFT AIではSEOメディア運用を担当。
また、SHIFT AIのモデレーターとしてコミュニティ運営にも携わっている。
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