文部科学省が発表した生成AIガイドラインには、国が定めた小学校・中学校での生成AI活用に関する方針や基礎知識、具体的な使い方、注意点が示されています。
生成AI技術が急速に発展する中で、勤務先の学校で生成AIを活用したいと考えながらも、「どのように導入・活用すればよいの?」「どのようなリスクがあるの?」など不安を抱えている教員の方も多いでしょう。
そのような方は、まず生成AIガイドラインの内容を理解することで、教育業務で効果的に生成AIを導入するための道筋が見えてくるはずです。
この記事では、文部科学省の生成AIガイドラインの内容を噛み砕いて、生成AIの活用方針や具体的な利用方法、注意点をわかりやすく解説します。
また、すでに生成AIを導入している小学校・中学校の事例も紹介します。
生成AIガイドラインの内容と事例を把握し、国の方針に沿った適切かつ効果的な生成AIの活用が可能になれば、校務の効率化や教育の質改善にも繋がります。ぜひ内容を参考にしてみてください。
|監修者
(株)SHIFT AI 代表取締役 / GMO他複数社AI顧問 / 生成AI活用普及協会理事 / Microsoft Copilot+ PCのCMに出演 / 国内最大級AI活用コミュニティ(会員5,000人超)を運営。
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文部科学省の生成AIガイドラインとは
文部科学省の生成AIガイドラインとは、2023年7月に文部科学省によって公表された、小中学校における生成AIの活用に関する指針を示す文書を指します。
この文書は、正式には「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」と名付けられており、G7教育大臣会合や政府内での議論、有識者や中央教育審議会委員の意見をもとに策定されました。
内容としては、教育現場での生成AIの適切な活用方法、学習指導における注意点、教師や生徒のAIリテラシー向上に向けた取り組みが示されています。
この生成AIガイドラインは、文部科学省の公式ウェブサイトで公開されており、誰でもPDF形式で閲覧・ダウンロードすることが可能です。
>>「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」
また、大学や高専向けには「大学・高専における生成AIの教学面の取扱いについて(周知)」という文書が発表されています。大学や高専の教育業務に携わる方は、こちらも併せてご覧ください。
>>「大学・高専における生成AIの教学面の取扱いについて(周知)」
※なお、生成AIガイドラインは暫定的なものであり、技術の進展や教育現場での実践状況に応じて今後も改定が行われていく予定です。
この記事では、2024年9月時点の「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」の要点を整理し、わかりやすく解説していきます。
文部科学省の生成AIガイドラインの基本方針
文部科学省の生成AIガイドラインでは、生成AIを教育現場で安全かつ効果的に活用することを目的とし、以下の3つの基本方針が掲げられています。
- 限定的な利用からスタートする
- 情報活用能力の強化を目指す
- 教師のAIリテラシー向上を図る
方針を理解することで、教育における生成AI活用の全体像が把握しやすくなります。
それぞれ確認していきましょう。
1. 限定的な利用からスタートする
文部科学省の生成AIガイドラインでは、教育現場における導入にあたり、まずは一部の学校で試験的に実施し、その効果や課題を検証する段階的なアプローチが重要であると強調されています。
このアプローチの狙いは、いきなり大規模に導入するリスクを避け、まず少数のパイロット校で実際に生成AIを試し、その有効性や問題点を現場レベルで確認することにあります。
具体的には、生成AIを使った授業がどれだけ生徒の学習成果に寄与するのか、教師がAIをどのように効果的に活用できるのか、さらには生徒のプライバシーや安全性が守られているかなどを検証します。
これにより、導入が成功すれば他の学校にも普及させる道が開け、もし問題が発生すれば、早い段階で対策を講じて適切な修正を行うことが可能です。
すでにパイロット校として選ばれた一部の学校では試験導入が進められており、これにより蓄積された知見が、今後教育現場全体でのAI活用に向けたガイドラインやベストプラクティスの確立に役立つと期待されています。
2. 情報活用能力の強化を目指す
生成AIガイドラインでは、生徒および教師の情報活用能力の強化を目指すことが方針として掲げられています。
生成AIは膨大な情報に素早くアクセスし、整理することが得意です。そのため、生徒が効率的に情報を収集し、分析・判断する力を育む力を助けることが期待されています。
また、教師にとっても生成AIは資料作成やデータの分析、フィードバックの提供を効率化するツールとして役立ちます。
これによって、より質の高い授業の提供や生徒個々の理解度に合わせた指導がしやすくなり、生徒の学びがより深まることが期待されています。
3. 教師のAIリテラシー向上を図る
生成AIガイドラインでは、教育現場で生成AIを効果的に活用するためには教師のAIリテラシーの向上が不可欠であるということも強調されています。
教師がAIの仕組みやリスク、メリットを正しく理解し、授業や校務で活用できることで、生徒にも効果的にAIの活用方法を指導することが可能になるからです。
文部科学省は、この方針に沿って教員研修を通じて生成AIに関する知識を提供し、教師が生徒に対して適切な指導を行うための支援も進めています。
文部科学省の生成AIガイドラインが示す校務での活用方法
文部科学省の生成AIガイドラインで提案されている、校務における生成AIの活用方法は、大きく分けて以下4つです。
- 授業準備への活用
- 行事・部活動での活用
- 学校運営のサポート
- 外部対応のサポート
推奨されている活用方法を把握することで、勤務校での生成AIの具体的な活用イメージも湧きやすくなります。
それぞれ順に解説します。
1. 授業準備への活用
生成AIは授業準備において、大きなサポートを提供できます。
例えば、授業の内容に合わせた教材や問題集のたたき台の作成をAIに依頼することで、より効率的な授業準備が可能になります。
また、個々の生徒に合わせたカスタマイズ教材を作成するなど、きめ細やかな指導の準備にも役立ちます。
2. 行事・部活動での活用
学校行事や部活動の運営においても、生成AIはスケジュール調整や資料作成をサポート可能です。
例えば、行事のスケジュール管理や参加者リストの作成、または部活動の練習プラン作成や試合の戦略提案など、管理業務や計画立案を効率化できます。
3. 学校運営のサポート
生成AIは、学校運営における事務作業の効率化にも貢献します。
例えば、学校全体の時間割作成や教員のスケジュール調整、保護者との連絡業務などの手続きにAIを活用することで、作業の自動化やミスの削減が期待できます。
また、運営に関するデータ分析をAIに行わせることで、より最適な運営方法を検討する際の意思決定支援としても活用可能です。
4. 外部対応のサポート
保護者や地域への連絡文書、外部機関とのやり取りなど、学校の外部対応業務にも生成AIを活用できます。
例えば、保護者からの問い合わせへの回答案を生成AIが作成し、教師がそれを修正して送信するなどの活用方法が考えられます。
また、他校や教育委員会等とのメールのやり取りでも、生成AIが適切な文面を提示してくれるようになれば、教師の対応業務の負担軽減につながるでしょう。
文部科学省の生成AIガイドラインが示す授業活用の良い例・悪い例
文部科学省の生成AIガイドラインでは、校務での活用方法に加えて、授業での生成AIの適切な活用方法・避けるべき活用方法が具体的に紹介されています。
良い例と悪い例の両方を把握することで、教師や生徒が生成AIをどのように効果的に使い、またどのように避けるべきか、より具体的にイメージしやすくなります。
それぞれを見ていきましょう。
授業における生成AI活用の良い例
まずは、教育現場での活用において効果的であると考えられている良い例を紹介します。
1. 誤りの教材としての活用
生成AIはときどき誤った情報を生成することがありますが、これを逆に教材として使うことで、AIの限界や特徴を学ばせる機会になります。
例えば、AIが生成した誤情報を生徒に提示し、その誤りを見つけ、正しい情報を調べさせることで、批判的思考力と情報リテラシーを養うことができます。
2. 社会的論議の素材としての活用
生成AIは、現代の社会問題を議論するきっかけとしても効果的です。
例えば、AIが提案した内容を基に、環境問題や倫理的なテーマについて生徒同士でディベートを行うことで、多角的な視点から問題を考える力を育てられます。
3. グループ活動での議論深化への活用
生成AIはグループディスカッションをより深く進めるための補助ツールとしても役立ちます。
生成AIを活用して得た情報をもとに、異なる視点を交えながら議論を行うことで、グループ全体の考察が深まるでしょう。
4. 英語学習や国語学習での活用
言語学習においても、生成AIは大いに役立ちます。
例えば、英語では会話の相手役として、国語では作文のチェックや新しい単語・文法の習得に使うことで、生徒は自分のペースに合わせて学習を進められます。
5. 文章推敲の補助としての活用
レポートやエッセイの推敲を手助けするツールとしても、生成AIは効果的です。
初稿をAIにチェックさせ、提案された改善点を基に文章を磨いていくことで、生徒は文章表現力を高められます。
6. 高度なプログラミング学習教材としての活用
生成AIは、プログラミング学習においても強力な補助ツールとなります。
複雑なコードの作成や修正をAIに助けてもらうことで、実践的なプログラミングスキルを効率的に身につけることが可能です。
授業での生成AI活用の悪い例
続いては、授業で控えるべき生成AIの活用例を紹介します。
1. 十分な学習がない段階での活用
生徒が生成AIの基礎知識を身につけていない段階で生成AIに頼ることは避けましょう。
学習が進んでいない状態でAIの情報を使うと、生徒はその内容を無批判に受け入れてしまい、自分で考える力が育ちません。
まずは基礎学習を十分に行い、生成AIの出力を評価する力をつけることが大切です。
2. 提出するレポートや作品での活用
生徒がレポートや作品を提出する際に、生成AIで作成した内容をそのまま使用させることも控えるべきです。
創造力や批判的思考力を発揮する場が減り、学びが浅くなります。AIは補助的な役割とし、生徒自身のアイデアをしっかり反映させることが重要です。
3. 創作活動や感性を発揮する場面での活用
創作活動では、生徒が自分の感性や表現を磨くことが求められます。
AIが生成した作品をそのまま提出することで、生徒のオリジナリティが失われ、感性を深める機会が減少してしまいます。美術や音楽などの授業では、AIを頼りすぎず、生徒自身の表現力を尊重しましょう。
4. 調べ学習への活用
生成AIが提供する情報は、誤りや偏りが含まれていることがあります。そのため生成AIのみでの調べ学習は避けるべきです。
AIをそのまま信頼するのではなく、他の信頼できる情報源と照らし合わせて確認することが大切です。最終的な判断は生徒自身が行うべきであり、AIはあくまで情報収集の一つの手段にすぎません。
5. テストでの活用
定期考査や小テストで生成AIを使用させることは避けるべきです。AIを使って解答を生成すると、生徒の本来の理解度や思考力を評価することが難しくなり、テストの公平性が損なわれる可能性があります。
また、生成AIに頼ることで教師からのフィードバックが減少し、学習意欲が低下するおそれもあります。
6. 生成AIのみでの学習評価での活用
生成AIを使って学習評価を行うと、テストでの活用と同様生徒の理解度や考え方の深さを十分に把握できないことがあります。
学習における評価は、教師が主体となって多面的に行うことが求められます。
7. 人間的な指導の代替としての活用
生成AIに頼りすぎると、教師と生徒間のコミュニケーションの機会が失われ、信頼関係が希薄になる危険があります。
教師との対話やフィードバックは、生徒の成長に不可欠な要素です。AIは補助的なツールとして利用しつつ、教師自身が生徒と直接関わることが必要です。
文部科学省の生成AIガイドラインが示す3つの注意点
次に、文部科学省の生成AIガイドライン3つの注意点を紹介します。
- 個人情報やプライバシーの保護を確実に行わなければいけない
- 情報セキュリティーへの配慮が必要である
- 著作権保護の観点にもとづいて活用する必要がある
先に紹介した例と併せて把握することで、生成AI活用のリスクを最小限に抑えることが可能です。
順に解説していきます。
1. 個人情報やプライバシーの保護を確実に行う必要がある
教育現場で生成AIを利用する際は、個人情報等の保護の観点を十分に踏まえる必要があります。
生成AIに個人情報やプライバシーに関する情報を入力すると、その情報が機械学習に利用されたり、回答として出力されるリスクがあるためです。
生成AIへの入力情報には細心の注意を払い、アカウント設定で入力情報が機械学習に利用されない設定にすることが求められています。
2. 情報セキュリティーへの配慮が必要である
各学校および設置者は、教育情報セキュリティポリシーガイドラインを踏まえた対応が必要です。
特に、要機密情報を生成AIに入力しないよう取り扱うことが重要となります。
また、教職員が私用アカウントや私用端末で生成AIを利用することは、学校の情報セキュリティ管理をすり抜ける行為となるため避けましょう。
事前にリスクに関する知識をつけ、セキュリティポリシーに則った適切な対応をとることが大切です。
3. 著作権保護の観点にもとづいて活用する必要がある
学校における生成AIの利用では、既存の著作物に係る権利を侵害しないよう注意が必要です。
生成物に他人の著作物との類似性および依拠性がある場合は、著作権侵害となり得ます。
学校の授業では、著作権法第35条により一定の範囲で許諾なく利用できる場合もありますが、授業目的の範囲を超えて利用する際は、著作権者の許諾を得るなどの適切な対応をとりましょう。
教育現場への生成AIの活用事例5選【パイロット校の取り組み】
次に、生成AIを活用している小・中学校の事例を5つ紹介します。
- つくば市立みどりの学園義務教育学校
- 函館市立万年橋小学校|学芸会の劇の台本制作にAIを活用
- 埼玉大学教育学部付属中学校|全校で独自の「校内GPT」を展開
- 新潟市立小新中学校|小説の校正にChatGPTを活用
- 武雄市川登中学校|英語の授業でChatGPTを活用
いずれの学校も政府によって生成AIパイロット校として認定された学校であり、各校独自の取り組みを進めています。ぜひ参考にしてみてください。
1. つくば市立みどりの学園義務教育学校|社会科の授業でBingチャットを活用
つくば市立みどりの学園義務教育学校では、Bingチャットを使った社会科の授業が行われています。
生徒たちは地域の課題を調査し、Bingチャットに質問を投げかけ、AIが提供する情報を教科書と照らし合わせながら精度を検証しました。
授業での取り組みを通じて、生徒たちは情報リテラシーや批判的思考力を身に付け、AIを効果的に活用するスキルを学んでいます。
2. 函館市立万年橋小学校|学芸会の劇の台本制作にAIを活用
函館市立万年橋小学校では、学級活動の時間に生成AIを活用し、学芸会の劇の台本を制作する取り組みが行われました。
具体的には、生徒たちが朝の会で歌っている「世界に一つだけの花」の歌詞をもとに、生成AIに台本の作成と登場人物の配役の提案の補助をさせる形で創作が進められました。
最終的には生徒がオリジナルの台本として仕上げており、生成AIの力を適切に活用しながら、創造力を発揮して作品を作り上げた例となっています。
3. 千代田区立九段中等教育学校|全校で独自の「校内GPT」を展開
千代田区立九段中等教育学校では、OpenAI社のAPIを使用し安全かつプライバシー保護に配慮した独自の「校内GPT」を構築し、校務や授業に役立てています。
令和6年内には、利用制限なく全教員・生徒が活用できる状態が整備される予定です。
また、この学校では教員が画像生成AIのAdobe Fireflyも導入し、学習素材やWebサイトの制作に積極的に利用しています。
こうした先進的な取り組みは生成AIを効果的に活用するための環境整備として高く評価されています。
4. 新潟市立小新中学校|小説の校正にChatGPTを活用
新潟市立小新中学校では、総合的な学習の時間にChatGPTを活用し、「防災・福祉」をテーマにした探究活動を実施しました。
生徒たちは生成AIに執筆した小説の誤字脱字を校正させ、講評してもらうことで、小説の品質向上に取り組みました。
生徒たちの文章力や表現力を高めると同時に、AIの有効な活用方法を学ぶ機会を提供している模範的な活用例として注目を集めています。
5. 武雄市川登中学校|英語の授業でChatGPTを活用
武雄市川登中学校では、英語の授業に生成AIが取り入れられています。1年生の英語の授業では、生成AIを使って英作文の改善を行う取り組みが進められました。
生徒たちは「小学6年生に学校の魅力を伝える紹介文」をテーマに、ChatGPTを活用して英文をブラッシュアップしながら、各自の作文を仕上げました。
また、この学校は生徒が生成AIと英会話に取り組む授業も展開しており、生成AIを活用した英語学習の実践校として高い評価を受けています。
教育現場での生成AI利用に関する今後の国の方針は?
今後の国の方針として、文部科学省は生成AIの教育現場での活用に関する可能性とリスクを慎重に検討しつつ、関係機関や企業と連携して適切な活用方法やルールの整備を進めていくことを明言しています。
さらに、生成AIを適切に活用できるかどうかが教育格差を生むリスクにも注意を払い、すべての児童生徒が必要な資質や能力を平等に身につけられるような取り組みを強化していく方針を示しています。
まとめ:文部科学省の生成AIガイドラインに則ってAI導入を成功させよう
この記事では、文部科学省の生成AIガイドラインを解説し、その活用方針や具体的な活用例、注意点について詳しく紹介しました。
教育現場で生成AIを効果的に活用するには、教師と生徒がその利点とリスクを十分に理解し、正しく使いこなすことが重要です。ぜひ本記事の内容を参考にしながら、学校での導入に役立ててください。
また、生成AIガイドラインの改定に対応できるよう、常に情報を確認し最新技術への対応準備を進めていくことも大切です。
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