「AIの学習や開発が著作権侵害に当たるのではないか」「海外の著作物をAIの学習に使用しても大丈夫なのか」といった懸念は、多くの開発者や利用者が抱えています。
このような不安を抱えたまま、AIの学習・開発を躊躇していては、技術革新の波に乗り遅れてしまう可能性があります。また、法的リスクを正しく理解せずにAIを利用することで、思わぬトラブルに巻き込まれる危険性もあるでしょう。
本記事では、AIの学習データ利用に関する最新の著作権法の解釈や、具体的な事例を交えながら、法的な観点から詳しく解説します。AIに大きく関わる日本の著作権法第30条の4や、画像生成AIのLoRAと著作権の関係についても触れていきます。
この記事を読むことで、AIの学習・開発に関する法的な不安が解消され、自信をもってAIを活用できるようになるでしょう。
|監修者
(株)SHIFT AI 代表取締役 / GMO他複数社AI顧問 / 生成AI活用普及協会理事 / Microsoft Copilot+ PCのCMに出演 / 国内最大級AI活用コミュニティ(会員5,000人超)を運営。
『日本をAI先進国に』実現の為に活動中。Xアカウントのフォロワー数は9万人超え(2024年9月現在)
AIの活用には、著作権問題以外にも注意すべき点が数多く存在します。これらの課題に適切に対応するためには、AIに関する幅広い知識を身につけ、理解を深めることが不可欠です。
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AI学習・開発におけるデータ利用は原則著作権侵害にならない
日本において、AIの学習・開発におけるデータ利用は、原則として著作権侵害にはなりません。
根拠となるのは、平成30年の著作権法改正により導入された第30条の4で、AIの学習データとしての著作物利用を広く許容しています(詳細は後述)。この規定により、AIの開発者や研究者は、著作物を学習データとして利用する際に、著作権者の許諾を得る必要がなくなりました。
ただし、この規定は無制限に適用されるわけではありません。著作物の利用が「著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合」に限られます。つまり、AIの学習目的で著作物を利用する場合は許容されますが、その著作物自体を鑑賞したり、他人に鑑賞させたりすることを目的とする場合は、この規定の適用外です。
AIの学習・開発に利用するデータと著作権の関係について、次からさらに詳しくみてみましょう。
生成AIの著作権リスクに関しては、以下の記事で網羅的に解説しています。
AIの学習が著作権違反にならない根拠「30条の4」とは
AIの学習や開発に利用するデータが、原則著作権違反にならないのは、日本著作権法の「30条の4」を根拠としています。
- 日本のイノベーション創出が目的の法律
- 許容される著作物利用の範囲が広い
- 著作権違反になる例外「ただし書」に注意
- 47条の5第2項との関係が深い
本章では、AIと著作権の関係について、30条の4を中心として詳しく解説します。
日本のイノベーション創出が目的の法律
第30条の4は、日本のイノベーション創出を促進することを主な目的として、平成30年にテコ入れがはいった著作権法の一部です。
30条の4には、情報解析のためであれば、必要な範囲で他人の著作物を無許諾に使用できると書かれています。
第三十条の四
著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。(中略)
引用元:著作権法第30条の4第2号(e-Gov)
二 情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うことをいう。第四十七条の五第一項第二号において同じ。)の用に供する場合
この法律により、AI開発者や研究者は、大量の著作物を学習データとして利用することが可能となり、より高度なAIシステムの開発が促進されます。
これは、日本が技術革新の最前線に立ち続けるために不可欠な法的基盤となっています。AIの発展は、産業界全体に大きな影響を与える可能性があり、この法律はその発展を後押しする重要な役割を果たしています。
許容される著作物利用の範囲が広い
第30条の4で定義される「情報解析」には、AI開発に必要な技術である「深層学習」や「機械学習」も含まれており、平成30年の法改正によって解釈が広くなりました。
深層学習や機械学習が含まれるということは、前述した「その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。」がAIの学習・開発にも認められることを意味します。
また、情報解析を自ら行うだけでなく、第3者にも著作物を提供してもいいとされています。たとえば、自社で情報解析に使用した著作物を、他社に送信・譲渡できるのです。
日本の著作権法は、AIの学習・開発において、世界的に非常に緩い制限にとどまっています。OpenAIが日本支社を設立したのも、著作権法の緩さが一因であると考察されています。
著作権違反になる例外「ただし書」に注意
AIの学習・開発に著作権法が適用されない根拠である第30条の4には「ただし書」が存在し、著作権者の利益を不当に害する場合は著作権侵害になる可能性があることが明記されています。
ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
引用元:著作権法第30条の4(e-Gov)
つまり、AIの学習目的であっても、著作権者の利益を著しく損なうような利用方法は認められないということです。たとえば、特定のクリエイターの創作的表現を意図的に出力させる目的でAIに学習させる場合には、著作権者の許諾が必要となる可能性があります。
このように、第30条の4はAIの学習・開発を促進する一方で、著作権者の利益保護にも配慮した規定です。AI開発者・利用者は、この「ただし書」の存在を意識し、著作権者の利益を不当に害することのないよう注意を払う必要があります。
47条の5第2項との関係が深い
AIの学習データが著作権を侵害しているかどうかは、第30条の4と第47条の5第2項の2つを根拠として判断されます。
第47条の5第2項は、電子計算機による情報処理及びその結果の提供に付随する軽微な利用であれば、著作物を利用することができると規定しています。
前項各号に掲げる行為の準備を行う者(当該行為の準備のための情報の収集、整理及び提供を政令で定める基準に従つて行う者に限る。)は、公衆提供等著作物について、同項の規定による軽微利用の準備のために必要と認められる限度において、複製若しくは公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。
引用元:著作権法第30条の4(e-Gov)
つまり、著作物の一部を出力するAIが、第30条の4において「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」であっても、第47条の5第2項の「軽微利用」に当たる場合は著作権侵害にならない可能性があります。
日本でAIを学習・開発する際には、第30条の4と第47条の5第2項を十分に確認するようにしましょう。
画像生成AIのLoRAは著作権違反になるのか
画像生成AIの一種であるLoRA(Low-Rank Adaptation)について、著作権法上の位置づけを疑問を持つ人も多いでしょう。
本性では、LoRAと著作権の関係について紹介します。
AIモデル内のパラメーター(数値)を一部だけ更新する手法。たとえば、あらゆる犬の画像生成に特化したAIモデルの一部を更新し、元のAIモデルの特徴を引き継ぎつつ、柴犬の画像生成に特化したAIモデルを作成できる。
原則として適法
LoRAを用いた画像生成AIの学習は、第30条の4を根拠として、著作権法上適法であると考えられます。
LoRAにおいて著作物を利用する場合、情報解析の中の「追加学習」に該当します。30条の4において情報解析のための学習は適法であるため、LoRAは著作権法で適法なのです。
また、LoRAによって特定の作家や作品の作風を模倣している場合でも適法になります。著作権法が保護するのはアイデアではなく表現であり、作風はアイデアに該当するためです。
LoRAは著作権法において適法になることを知っておくと、LoRAを開発したり、利用したりする際の不安が軽減されます。
学習データをそのまま出力すると違法の可能性
LoRAを含む画像生成AIの学習・開発は、原則適法ですが、学習データをそのまま出力してしまう場合、著作権侵害となる可能性があります。
LoRAで作成したAIモデルが著作物をそのまま出力してしまう場合は、第30条の4のただし書「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」に抵触するためです。
また、データそのものの出力は「軽微な利用」とは言えず、第47条の5第2項の保護も受けられない可能性があります。
たとえば、特定のアーティストの作品を大量に学習させたLoRAモデルが、そのアーティストの作品とほぼ同一の画像を生成してしまう場合、著作権侵害のリスクが高まります。
したがって、LoRAを含む画像生成AIの開発者や利用者は、AIの出力が学習データの直接的な出力にならないよう、十分な注意を払う必要があるのです。
日本国著作権法の適用範囲は利用行為地で決まる
日本の著作権法によると、AIの学習・開発は幅広い範囲で適法ですが、国をまたいだ場合、利用行為地によって日本の法律が適用されるかを決定されます。
つまり、著作権者が海外にいても、海外のサーバーを利用した学習・開発でも、作業者が日本に存在する場合は日本の著作権法が適用されるのです。
たとえば、以下のケースは日本の著作権法が適用されます。
- 日本の作業者が、海外のデータを日本のサーバーを使い、日本でAIを学習・開発する
- 日本の作業者が、海外のデータを海外のサーバを使い、海外でAIを学習・開発する
上記の2番のように、ほとんど海外で学習・開発を行なっても、作業者が日本にいる限り日本の著作権法が適用される可能性が高いです。
日本の著作権法のもとで、AIを学習・開発したい方は、作業者の利用行為地は必ず日本にしましょう。
著作権侵害した生成AIを使ったコンテンツは違法なのか
著作権を侵害した行為を行なって開発された生成AIサービスを使い、既存著作物と同一、または類似したコンテンツが生成された場合でも、ユーザーの行為は著作権侵害に該当する可能性があります。
たとえば、以下のように学習データに既存著作物を利用して、ユーザーが類似・同一のコンテンツを出力したケースが考えられます。
現状、ユーザーが既存著作物を認識している・いないに関係なく、上記のケースでも著作権侵害になる可能性が高いといわれています。
ただし、今まで裁判で争われたことがないため、判例ができるまでははっきりしないという点にも注意が必要です。
生成AI、とくに画像生成AIを扱う際には、使用するツールの学習データにも気を配る必要があるでしょう。
AIを学習・開発する際には著作権法を理解しておこう
AIを学習したり、開発したりすることを検討している企業や個人は多いでしょう。
日本の著作権法は、AIの学習・開発において緩めの制限ですが、何も知らないままだと、著作権を侵害する可能性があります。
本記事を参考にして著作権侵害リスクを回避しつつ、安心・安全なAI開発を行なってください。
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