農家の「右腕」にAIを。満足度95.2%のワークショップが拓く、一次産業の新しい選択肢

愛知県西尾市。日本有数の産地として知られるこの街で、農業に新しい選択肢を取り入れる一歩が踏み出されました。
2025年12月、SHIFT AIと西尾市の生産者たちが協力し、生成AIを活用したワークショップを開催。当初は「自分たちには縁のないもの」と感じていた農家さんたちが、数時間のワークを通じてAIを身近な道具として捉え直した、当日の様子をレポートします。
本プロジェクトの企画者であり、自らメイン講師として登壇した羽佐田裕紀さんに、活動の背景とそこに込めた想いを伺いました。

羽佐田 裕紀 さん
肩書き:農業×生成AIの地域PRマーケター
約10年にわたる農業経験を基盤に、SNS運用・生成AI活用・コンテンツ制作へ活動領域を拡大。農業現場の知見を活かしながら、情報発信とプロジェクト推進を一気通貫で担当。SHIFT AI講師として発信・教育に携わるほか、自治体とのPRプロジェクトにも参画。生成AIを活用し、地元特産物をAIでキャラクター化してPRする事業を立ち上げ、日本農業新聞に掲載。これを機に、市長・JA後援の「農業×AIワークショップ」を開催するなど、地域×AIの取り組みを形にしてきました。
人手不足や技術継承の壁を、AIという「新しい力」で越えていく
現役きゅうり農家である羽佐田さんは、人手不足や技術継承、そして「価格が相場に左右され、自分でコントロールしにくい」といった、一次産業特有の課題を肌で感じてきました。
今回のプロジェクトは、羽佐田さんの「地元住民や生産者の方々からのサポートへの恩返しとして、AIの知見を還元したい」という想いから始まりました。
「これまで支えてくれた地域や生産者の皆さんに、AIという新しい武器を届ける。それが、現役農家でありAIを扱う自分にできる、一番の恩返しだと思ったんです」
その想いにSHIFT AIが共感し、西尾市やJA西三河の後援を得て、このワークショップが実現しました。
農家の「右腕」にAIを。生産者が「本来の仕事」に没頭できる環境へ
羽佐田さんが考えるAIの役割は、決して人間の代わりになることではありません。農家が本来の「つくる仕事」に没頭するための、頼れるパートナーとしての活用です。
今回のワークショップでは、生産者の皆さんの「やりたいけれど手が回らない」という実情に寄り添い、以下の54つのテーマに重点を置きました。
- 経営分析・コスト管理: 現状を数値化して改善点を洗い出し、経費削減のシミュレーションを実施する。
- SNS発信: 農園のファンを増やすため、販売促進に繋がる投稿内容をAIと共に作成する。
- 人材確保: 現場の魅力が真っ直ぐ伝わる求人票や、応募者の心に響く採用文面を作成する。
- チラシ・デザイン: 直売所などで即戦力となる販促物のデザインをAIで生成する。
- 音楽生成: 農作物の販売会などで流すオリジナルBGMをAIで作成し、売場の雰囲気作りを行う。
こうした活用は、単なる効率化を超えた価値を農家にもたらします。羽佐田さんは、その先にある変化をこう強調します。
「事務的な作業をAIに任せることで、栽培の研究や顧客対応、そして家族との時間など、農家が本当に大切にすべきことに時間を使ってほしい。それが、持続可能な農業を実現するための現実的な解決策になると考えています」
満足度95.2%が示す確信。AIは農業の「遠い存在」から「身近な武器」へ
20代から70代まで幅広い世代が集まった会場では、最初は「難しそう」という声もありましたが、実際に手を動かすにつれて対話が弾み、活気ある場となりました。

アンケートでは、全体の95.2%が「満足(4以上)」と回答。さらに、81.8%が「AIに対して前向きになった」と答えました。

事前の不安が、確実な期待へと変わったことが示されています。
参加者が特に強い関心を示したのは、「求人作成」「経営解析」「SNS活用」といった、日々の農業経営に直結する具体的な活用事例でした。
こうした意識の変化は、生産者個人に留まらず、産地全体を支える組織へも波及しています。
実際に、現場に同行したJA職員の方々からも「事務作業の改善に役立つ」との評価をいただきました。また、68.2%の参加者が「次回もぜひ参加したい」と意欲を示しており、今回の試みが地域農業の新しいスタンダードへと繋がる確かな手応えを残しました。
“農業×AI”の共創で挑む。地域と歩む一次産業アップデート
今回の挑戦を支えたのは、企画者である羽佐田さんだけではありません。愛知県内のSHIFT AI会員もサポート講師として多数駆けつけ、地域一体となってこの学びの場を作り上げました。
地元をよく知るAI人材が生産者に寄り添い、共に課題を解決していく。この「地域密着型の共創」こそが、日本の一次産業にAIを無理なく、かつ着実に実装していくための鍵となります。
今回のプロジェクトを振り返り、羽佐田さんは次のように語りました。
「AIは、農家が本来大切にすべき『つくる喜び』を取り戻すためのものです。西尾市で生まれたこの小さな一歩を、全国の生産者が希望を持てる未来へと繋げていきたい」
今回の試みはまだ最初の一歩ですが、ここで得られた「AIを実務に活かす」という体験は、これからの農業経営に確かな選択肢をもたらすはずです。
SHIFT AIはこれからも地域と連携し、生産者の皆さんと共に、一次産業の現場に即したアップデートを支援し続けていきます。




